another contract


聞いた事がある。
俺たち“吸血鬼”の一族は人を雇って、“餌”にしているのだと。
そして“特別”と呼ばれる人がいて、そいつは普通の人よりも血が美味しいらしい。
その“特別”と呼ばれる人は、死ぬまで“吸血鬼”の“餌”として生きるのだと。



でも、俺には関係の無ぇ事だ。



「いらねぇ、俺は人間の血は飲まねぇ主義なんだ」

そう答えると、そいつはペタンとその場に座り込んだ。

「いらないの、‥ですか?」
「ああ」

なんだ、良かった‥‥。
そいつは言って、心底安心した様に笑った。

なんだ?コイツ。
自分で『いりませんか?』って言っておいて。

「貴方は人の血を飲まないのですか?」
「ああ」
「どうして?」
「痛ぇだろ」
「‥え?」
「お前みたいに血をくれるヤツが、痛ぇ思いするだろうが」

後から痛くなくなっても、最初はとても痛ぇ筈。



俺は喧嘩が好きだ。
でも人の涙は嫌いだ。



「なぁ、何で泣いてたんだよ」
「‥‥嫌、だから」

“吸血鬼”の“餌”になる事が。

‥やっぱりな。
こいつは“特別”な存在だから“餌”として雇われてんのか。

「誰に雇われてんだ?」
「えっと、直ぐそこの“赤原”という方です」

‥あかはら?

ここら近所で“あかはら”っつったら‥
たった一軒しかねぇな。

つまりそれって‥



俺ん家じゃねぇかッ!!