another contract


そいつは恐る恐る顔を上げて、その純粋な黒い目で俺を見た。
すると安心した様に大きく息を吐く。

「ゴメンなさい、泣いてて‥‥邪魔、ですよね?」
「い、いや」

なんて声を掛けたらいいか分からなかった。
その顔をみれば、何かあったのだろう。
その泣いている顔もあまりに綺麗だったから

本当に天使なんじゃねぇのか‥‥?

と真面目に思ってみたり。

「雨宿り‥ですか?」
「あ、ああ」

そういって微笑みかけてくるそいつの真っ白な筈の服は、肩の辺りが赤く染まっていた。

‥‥血、だ。

「お前、その肩の血‥どうしたんだ?」
「‥‥っ」

問いかければ、その顔は一瞬にして強張った。
俺から目をそらして、そこに手を添える。

そこを、庇う様に。

そして俺の目には、もう一つの異常が映った。
首元に、二つの後がいくつもある。

「‥お前、“餌”か?」

そう問うと、そいつは俺から少し後ずさった。

「‥‥知っているって事は、貴方も“餌”ですか?それとも‥‥」



“吸血鬼”ですか‥‥?



そう問いかけてきた声は震え、目には今にも零れ落ちそうな程の涙。

「“吸血鬼”の方だ」

そう答えると、そいつは意を決した様に一度目をぎゅっと瞑った。
そしてゆっくりと開いた瞳に俺を入れると、俺に近づいてきた。

「血、いりませんか?自分は“特別”な存在だから、」

普通の人のモノより美味しいですよ?

そういって、首元を俺に見せてくる。
薄暗いせいか、白く映えてみえる肌。
その白に乗っかっている赤は、更に映えて見えた。

そのにある無数の“跡”。
それがこいつのこれまでを語っていた。