お爺さんは私たちを離れに誘導すると、私にお風呂を勧めてきた。
紅さんの血が気持ち悪いだろう、と。
別にそんな事は感じていなかった。
こんなので気持ち悪いと思うなら、私はあの場を去っている筈だから。
紅さんに先に入る様に勧めたけど、紅さんが先に入れと言っていたから着替えを貰って、先に入る事にした。
シャワーの蛇口を回すと暖かい御湯が体を伝っていった。
私を伝って流れていくお湯は、微かに赤を纏っていた。

「‥‥傷、大丈夫かな」

紅さんが私の血を口にした後は、倒れたり、ふら付いたりする事は無かった。
足取りは軽く、とても元気だった。
その体に付けられている傷が、まるで特殊メイクの様に思えたくらい。

「‥‥」

お風呂から上がって、紅さんをお風呂に勧めにそこまで長くない廊下を歩いた。
時は既に夜。
空には満月から半月となった月が浮かんでいた。

「紅さん」

お爺さんと向かい合って座っていた紅さんに、声を掛ける。

「お、ちゃんと温まったたか?」
「うん、ゴメンね。先に入らせてもらって」
「いや、良い。じゃあ行ってくる」

そう言って私の横を通り過ぎて行った彼の目は、水分を多く含んでいた。
‥‥泣いた、の?

「ほほ、無理せんで泣けばいいものを‥」

いつでも胸を貸してやるのにのぉ。とお爺さんは小さく笑って言った。

「何か話していたんですか?」
「ふむ、紅のな、亡くなった母親の事じゃ」



‥‥紅さんの、お母さん‥?