「っ、お願い‥、飲んで‥ッ!紅‥ッ!!」

何かが、何か大きな衝動が‥‥

俺の中を浸透していく。

桃が俺の名前を呼んだだけなのに。
『さん』を付けて言わないだけなのに。
どんどん、体の、隅から隅までに、衝動は行き渡る。

いいのかよ、桃‥‥。
お前は“吸血鬼”に血を与える事なんかしたくないんだろ?
それを分かっていて、俺は“契約”したんだ。
俺は人の血を好んで飲まねぇ。
だから、ちょうどいいな。って思って“契約”したんだ。

俺の命なんて、お前にくれてやるって思ってよ‥‥。

でも、そっか‥‥。
俺が死んだら、お前は俺を追いかけんのか。
それは困るぜ、流石に‥‥。
なら‥‥

「悪ぃ‥‥桃」

俺は桃の首筋に歯を立てた。
これからどうするかは、後で考えればいい。
今は、桃を守らなきゃならねぇ。

久しぶりに生きているものから、直接血を貰った。

「っ、‥ぃ」

桃の苦痛の声が耳に刺さった。
ほら、やっぱり、イテェんだろ?

「こ、う‥」

俺の名前を呼ぶ声。
俺はお前言葉に、甘えても良いのだろうか。
本当に、桃の思い通りにしてもいいのだろうか。

俺、お前をおふくろの様にしてしまわねぇか?

さっきとは違って、重たく感じた体がものすごく軽く感じる。
分かる。

体に熱いモノが勢い良く流れて、俺を駆り立てた。
俺はゆらりと立ち上がる。

「お、お前‥ッ!!」

焦りだすその男達。
だよな?

俺は喧嘩が好きだから。
自分で言うのも難だが、もちろんその分強いって事。
今まで数え切れない程の喧嘩をしてきたんだ‥。
屋敷のヤツには結構恐れられているのが現状。
さっきまであんな情けねぇ姿だったのは、血が体から消え去ってたが原因だろ。
良かったぜ、身体が暴走する前に桃が来てくれて。
もし体が暴走していたら、人殺しになっていたかもしれねぇし。

桃にまであんな事したんだ。
ただで済ませるわけにはいかねぇぞ。

ドゴッと腹に蹴りを入れれば、簡単に倒れるその体。
葵を踏みつけているそいつにも、顔面に思いっ切り拳を飛ばした。

「ははっ、やっぱ先輩は凄いや」

ノーテンキに言う葵も、俺と同じ位にボロボロに。