「‥紅、もうこんな真似はするな」
「はぁッ!?」
「次すれば、ただで済まんぞ」
「知るかっ!!そんなに自分の食料が大事かよ。‥“特別”が何か知らねぇけどよ、人の人生潰してまで“特別”なヤツが欲しいとは、生きようとは俺は思わねぇッ!!」
「‥‥そうか」
俺は襖をピシャッ!!と閉めて、部屋を無言で出ていった。
やりどころの無い怒りが、体の中に充満していた。
でも、俺は何に怒ってる?
おふくろを見殺しにして、まだ“餌”としての被害者を増やそうとしている親父にか?
それとも、結局何も出来ずに自分の無力さだけを痛感した自分にか?
何にしろ、桃を助けれなかったのは事実。
「‥‥おふくろの時の様に、何も出来ないのは、嫌だ」
ただの傍観者になるのは、辛かった。
分かっているのに助けれない。
分かっているのに何も出来ない。
それは何が何でも嫌だ。
部屋に帰ると、桃が窓から外を眺めていた。
電気も付けずに。
電気を付けようと、スイッチに手を伸ばしたが、引っ込めた。
「おかえり。旦那さんに、‥叱られた?」
「‥‥いや、叱られてはない」
「そっか」
以外と落ち着いた声で、俺は返事を返す。
雲に隠れていた月が出て来て、部屋の中を照らした。
もちろん、俺ら2人もその淡い光に包まれる。
「ゴメンなさい。私の為にしてくれたんだよね?」
「‥‥」
「なのに、肝心の私は何も出来なくて‥助けられてばかりで‥‥」
「‥俺は何もしちゃいねぇ」
「ううん。紅さんは沢山私を助けてくれてるじゃない」
「‥‥」
「ありがとう」
視界が暗さに慣れてきた頃、俺に笑いかけながら桃はそう言った。
俺はお前のその笑顔に、何度癒されただろう。
さっきまで充満していた怒りは、今の笑顔だけで全て消された気がした。
俺だって‥‥ありがとう、だ。

