夢梨を受け入れなかった自分が気まずいのか、蓮は夢梨の名前を呟くなり俺から視線を外してしまった。
俯いた視線の中に、彼女を思い出しているのだろうか……。
「……石黒さんか? 夢梨をフッた理由」
「…………」
石黒 百合奈。
俺らの隣のゼミだった同級生で、蓮の彼女だった娘。
背が高い癖にボンヤリな蓮に寄り添う、小さく可憐な女の子……なんてイメージだけが未だ強く残っている。
……今はもう、それすら確認する術はない。
何故なら、
「……死んだ彼女は、誰も越えられない……か」
彼女は去年の事故で、亡くなってしまっているから。
それっきり二人の姿は、大学のキャンパスから見られなくなってしまった。
「夏葵。……俺は、百合奈が死んだ日から生きてる実感が無いんだ」
曖昧に笑ってみせる蓮に、俺は何も言えなかった。
やっと百合奈の死を受け入れている……。
蓮の心には、今はそれが精一杯なのかもしれない。