「山田モモ」

決して読み間違えることのないシンプルな名前。
名札の文字を感情のこもらぬ声で音読した少年は、ポケットに突っ込んでいたクラス分けのプリントを目の前で無造作に広げてみせた。

「極端に字画が少ないから、眼鏡がなくても何となく読めた」
「そ、それで……」

言いかけて口をつぐんだ。
別棟の教室までこうしてわざわざ出向いてくる理由は一つしかない。

「お願いです。少しだけ時間を下さい!」

身体が折れ曲がるほど頭を下げてから、モモは自分たちを取り囲んでいる生徒たちの間をすり抜けた。

「こら、廊下を走るな!」

まだオリエンテーションが終わっていない別の教室から、教師の怒鳴り声が聞こえてきたけど、モモはひたすら走り続けた。