片方のレンズが完全に抜け落ち、もう片方のレンズには無残なヒビが入っている。

それでも表情を変えることなく完璧なスピーチを披露しているその人は、さっき自分が大勢の目の間で転倒させた男子生徒だった。

新入生代表として答辞を述べることは、成績トップで合格した生徒の役目だ。
つまり、目の前の少年は、他校生から皮肉と羨望をこめて「東大予備校」などと呼ばれているこのエリート高校の頂点に立っているということになる。

モモは相手の視界に入らぬよう、限界まで身を縮ませた。

「新入生代表 伊集院正隆」

名前からして賢そうな少年は、壊れたメガネのブリッジを軽く指先で持ち上げると、最後にぺこりと頭を下げた。