「‥‥嫌われる為」





「‥はぁ?」
「って、言えば良いかな」

本当に、全くワケ分かりません。って間抜けな顔してるよ、先輩。
全く‥‥もう少しだけでも理解力のある人になってよね。
ま、先輩を納得させるのはそう難しい事じゃないけれどさ。

「な、何でそんな必要あんだ?折角懐いたってのに」

なんで‥?
自分にとって大事だと思った人が、他の誰でもない自分のせいで苦しむんだよ‥?
先輩はそういう立場に立った時、それをただ見ている事が出来る?

僕には無理。

だから嫌われて、もう寄って来なくなればスミレも、僕もただ戻るだけ。



今までの生活に。
今までの自分に。



そう言ってやれば、先輩は顔をしかめた。

「‥‥お前は、本当にそれで良いのか?」
「‥それでスミレが倒れたりとかしないなら」
「‥本当に、か?」
「しつこいよ‥、先輩だって、桃がそうなったら嫌でしょう?」



‥‥同じ吸血鬼として。



赤いルビーの様な先輩の眼を見て、薄く微笑んでやった。
少し、沈黙が流れる。

「‥‥そう、だな。‥だがちゃんとこれだけは覚えとけよ。」



お前のする事で、悲しむ“バカ”がいるって事をな。



先輩はそう言い捨てて、バタンッという扉の閉まる大きな音と共に去って行った。



―――ポツリ。

僕のする事で、

―――ポツリ、ポツリ。

悲しむ、か‥‥。



その人が今、悲しんでいるのかな。
窓越しから外を見れば、小さな雫がポツポツと地面に落ちては染み込み、染みを作っていた。



また、

ポツリ、

ポツリと‥‥―――。