「買われた人間」

「……」

奏太は、東の一言に身体を熱くした。

でも、何も言わなかった。

「勇気のなさ」

「俺には勇気がないってことかよ」

奏太の左手は、膝の横で拳になった。

「嫌なら嫌って言えばいいが」

「言ってるよ、毎日」

「じゃあ何でやめないんだ。やめないのを黙って見てるんだ」

「…買われた人間だから、逆らえない」

東はまた鼻で笑った。

「阿呆かお前」

奏太は、右手さえも膝の横で拳になった。

「お前になにがわかる」

「は?」

奏太の表情が、前よりずっと真剣に、また、怒りに染まっていた。

「父親が死んで、弟は病気、母親の苦労。全てを考えて俺は売られたんだ。お前にはこの気持ちがわかるのか。この気持ちのどこが阿呆なんだっ」

奏太は、鋭い目付きで東を睨んだ。