奈美は静かに帰ってった。
どうしたんやろ?
俺、変なこと言うた?
いやいや、そんなこと言うた覚えないわ。

俺は気付いてなかってんな。奈美のほんまの気持ちに…。ちゃんと考えてあげたら良かった。



俺は、奈美が病院に来た時に謝ろうと思った。
その時は、奈美がいつもみたいに病院に来ると思ってたから───…

いつの間にか、毎日奈美が病院に来るのが当たり前になってた。
けど、それは違うかった。



それから奈美は病院にはこぉへんかったんや。

「今日も来てない…。」
俺が窓の外を眺めながら言うと、りんごの皮を上手に繋いだまま剥いていた母さんが笑って言った。
『奈美ちゃんか?』
「何笑ってんねん…。」
『別にぃ〜? それよりあんた、ほんまに奈美ちゃんの事忘れたんか?』
「ううん…。 勝手にそうなってしまった。」

すると、母さんは『そう? 良かった良かった。』とだけ言って、りんごを一口食べ、病室を出ていった。
まさか、奈美に言うたりせんよな?