「晴れかな、雲りかな・・・」そう思いながらカーテンをめくった。曇り空を見上げて少し安心した僕は、枕の横にあった携帯を見た。もう間に合わない、ワクワクする気持ちと反面罪悪感を感じつつベットに転がった。
就職して、社会人となり2ヶ月。おもしろくない日々と戦っては見たが、どうにも我慢が出来ないのは退屈な時間。大人って何が楽しくて仕事してんのかな、ってつぶやきながら会社に向かう時間すら退屈だった。
明日の天気が曇りだったら僕は会社を休む!って誓って布団に入った。曇り空を見て、いざ会社に電話・・・ためらうよな、さすがに。みんな今頃会社に向かってるんだろうなって考えると、キツイ。いや、僕が決めたこと!!ムカつく部長に大袈裟な演技で「風邪引きました」って電話すればいいんだよ!
葛藤して30秒・・1分・・1分15秒・・。ホッ、やれば出来るじゃん、今日は休みだー。テレビの上の植木に水をあげて、携帯を枕の下に放り込んで、もう一度眠ることにした。

昼ごろ、雨の音で目が覚めた。

雨って好きなんだ。自分の居場所を隠せるおまじないみたいで。
雨が降ると、自分を探しに来る魔物達をシャットアウトしてくれる、雨がバリアを張ってくれてるって思うんだ。
小さい頃からずっと信じ続けてきた、怖がりな僕の理論。

押入れからロウソクを取り出した。
遮光カーテンって、すばらしいなとしみじみ感じる。
もう昼なのに、まるで夜のような暗い僕の部屋に、ロウソクの明かりがともった。
これってバニラの香り?
大学時代、サークルの合宿の打ち上げで記念品として配られたロウソク。
当時はなんだこんなもんって思ってたけど・・・記念だからと捨てられずにいた。
耳を澄ませば外は雨音、僕の部屋はロウソクの炎に揺らめき、手の中には愛しいくらいに柔らかい火。甘いバニラの香りはすぐに僕の部屋を包んだ。

あの日のこと、今思えばなんでロウソクを取り出したのか、火をつけたのかはわからない。鼻につくバニラの甘ったるい香り。
でもそれがあいつと僕と出会いの始まりだった。