女将の方をちらっと横目で見ると、顎であたしをしゃくり、『行け』と促している。

言われた通り、仁志さんの後を追いかけて行く。

店がある雑居ビルの階段を下りると、やたらネオンが目につく。

「そう緊張すんな。煙草でも吸うか?」

仁志さんが差し出してくれた煙草の箱を手で制止して、自分の煙草を取り出した。

「…それで…何か御用でしょうか」
「いや、新しくお前が入ってきたって言うからな、女将や綾子の事を話して置こうと思ってな」

仁志さんは態度を少しも変えないで、店の人達の事を話し出した。