きっとこの街にも、ちゃんとした町名があるのだろうけれど、幼い時分から『色町』とだけ聞かされていたから、色町としか名前を知らない。

その昔、ここは遊郭だったと祖父に聞いた事がある。

それなりのお嬢様として育ったあたしは、色町に近付く事すら禁じられていて、不良していた時期ですら足を踏み入れようとはしなかった。

…なのに、あたしは今から色町の女として一夜を過ごすのだ。