「ただいま…」

消え入りそうな声で玄関を潜り、居間へ入ると、お母さんがせわしなく夕飯の準備をしている後ろ姿が目に飛び込んできた。

「おかえり」

機嫌がいいのか、お母さんは笑顔だ。

「なあ、今日夜さ、麻珠見ててな」

鞄を下ろし、椅子に腰掛ける。

「どっか出掛けるん?」
「いや、バイト」

出来るだけしらっと、流すように伝える。

「バイトって何よ」

言わずに通れるものなら、本当にそうしたいと願う。