場所はオレの部屋。
オレの部屋は家の離れにあった。
うまく表現するなら温泉旅館の離れみたいな感じ。
だから内側からカギを掛ければ小さくも一軒家となり、友達からは連れ込み寺などと呼ばれひやかされていた。

カレンダーも12月一枚だけとなった寒い日だったと思う。
窓にある全てのカーテンを閉め切れば昼間でも薄暗い部屋で、ストーブの灯かりだけが二人を照らしていた。淡い明かりに包まれながらじゃれ合い、だんだんとそんな雰囲気になっていった。

男っていつまでもそんな状況を覚えているものなのか部屋の中はとても熱く、オレの大好きなキャロルのナンバーが流れていた。
だから今でもキャロルの「やりきれない気持ち」「彼女は彼のもの」「愛の叫び」などタイトルだけ書くととても恋愛真っ只中なんて思えないけど、聞けば何故かストーブのぼんやりした淡い灯かりを思い出す。

そのくちづけも今思えば彼女にリードされていた。
何年も経って真子と再会した時に「ユウジはそんな事に興味のない男かと思った」なんて言っていたが、女に興味のない男なんていない。
ましてそれが思春期の男であれば尚更のこと。
でもその対象が真子ではなかった。
とにかく彼女を大切にしたかった。

くちづけをするようなシチュエーションを彼女が作りオレがそれに従ったようなもんだった。
男らしく強引に唇を奪うなんてものじゃなく、自然な感じだったが唇が重なってしまうと男の本能が目覚めそのまま彼女を押し倒し身体をさわった。
それでもそれ以上に進んだ行為にはならず、最後にもう一度キスをして終わった。

そしていつもの学校帰りに別れる場所まで送った。
この時、家を出てからはずっと肩を組んだままだった。
オレの住んでる狭い町内を抜けるまで誰か身内に会わないかとヒヤヒヤしていたけど、
こんな時って運とかツキとかやっぱりあるのか誰にも会わず、広い団地を潜り抜け別れの場所まで誰にも会わなかった。

別れ間際に「このまま一人で帰るの寒いな」と真子の顔に頬を寄せると彼女はそっとキスをしてくれた。

この時オレ達は付き合っているんだとか、オレ達は恋人同士なんだと改めて実感した。
初めての彼女に初めてのキス、あの時は本当に幸せだった。