つき合い始めて聖子を内面から知ると、
素直で思いやりのある子だなとすぐに思った。

それは単に約束を守るとか、待ち合わせ時間を守るとか当たり前の事だけど、
彼女には真子にない優しさがあり、

「オレは始めから聖子と出会っとけばよかった」と思うようになっていた。

毎日デパートの中をブラブラしたり、ベンチに座って話したりと順調に交際を重ねてゆき、日曜日のデートなんか神社を回ったりして純情を絵に描いたようなつき合いだった。

十代の若いカップルが日曜の昼間に神社でデートって、
今ならダサくてありえない話しだけどやってる本人大マジメだった。

だけどその後はオレの部屋に聖子を呼んでキスをした。

部屋に呼んだのはキスが目的じゃなくて電話連絡が無理ってのを理解してもらうためだった。

離れの一軒家が自分の部屋と言ってもさすがに電話まで引いてもらえず、
かと言って家の親はオレを呼びにくるのが面倒で電話の取次ぎは絶対にしてくれなかった。

何度も言うけど今のように携帯なんて世の中には存在しない時代の話しよ。
だからオレが部屋に居ようが居まいが関係なく
「ユウジは留守!」で片付けられ電話は繋げてもらえない。
それでよく男友達とも「電話したのにいなかった」とモメていたので、
聖子にはそれを理解していて欲しかった。

しかし口で言っても聖子には”離れ”の意味が中々理解して貰えず、それでオレの部屋に招待したまでの事。
くちづけの後、聖子は「こんなに早くキスするとは思わなかった」みたいな事を言っていたのでオレは「これが目的で付き合っているんじゃない」とはっきり言った。

結局、電話はオレの方から掛けるようにしようとしたが、今度は聖子が団地住まいらしく「電話の内容は親に筒抜けだから嫌だ」と言い出し、
しかも親父さんは男から電話が掛かるだけで怒り出す厳格な人らしかった。

それで仕方なく手紙のやり取りで連絡をする事にした。