「でも、まさかあの男まで邪魔するなんて‥」

怒りという名のマグマが、私の中で静かに煮えたぎる。
噴火を目前に控えた静けさが、私に冷静さを求めた。

「貴方、よっぽど愛されていたのね」

私はただ彼女を目で追った。
彼女は鞄の中から何かを取り出す。

それは短剣に似た、刃物。

刃は蛍光灯の光を浴び、キラキラとしている。
その刃を私の方に突き付け、彼女は不気味に笑った。

「あの男が死んで寂しいでしょ?悲しいでしょ?」

当たり前よ。
大切な人が亡くなって、そう思わない人なんていない。
私はポケットの中の携帯を握る。

「だから、連れて行ってあげる。あの男のところに」

そう言って襲い掛かってくる刃物。
とっさに交わしたものの、頬に傷を負った。
血がそこから流れ出てくるのが分かる。
重力に引き付けられて、ゆるゆると落ちていく血は、あの時の様に服を赤く染めた。

「あんた、自分が何しているか分かってるの‥ッ!?」
「どうでもいいわよ。邪魔な人が消えればそれでいいんだから」

だから、死んで?

そう言われた私は、一瞬、それでもいいかもと思った。
志黄のところにいけるから‥‥それでもいいかなって。



でもね、私は約束したから。



この命が燃え尽きるまで生きるんだって。
後悔も何も無くなってからそっちに行くんだって。



志黄の生きれなかった分、私が一生懸命に生きるんだって。



そう考えて、ちょっと油断した時だった。

「‥‥っ、う‥」

横腹の辺りがやけに痛む。
視界が大きく揺れて、机の足が見える様になった。
私は、倒れた事をこれで知った。
何か、水の様なものが私の手に触れて‥‥。

ああ、もしかして‥‥私も逝ってしまうのかな。

なんて縁起の無い事を思った。
それでもいいけど、それも嫌だった。

‥‥志黄に「早過ぎる」って怒られてしまいそう‥‥。



そう思いながら、腹部からの激痛に耐えれなくなった私は、



意識を飛ばした。