落ちる最中にも雨は容赦無くそれを打ちつけ、バラバラになる桜の花。
そして少しの間だけ花びらは舞って、地面に叩きつけられた。

俺、思うんや。
お前に殴られるかもしれんけど‥‥。
お前じゃなくて、刺されたのが俺で良かったと。
だってお前にこんな赤いもんは似合わんし、こんな痛い目にあって死ぬより、綺麗な姿で死んで欲しいんや。
変な言い方やけどな。
それに、俺は世界一幸せな死に方をしとると思う。
一番大切な人に見られて逝くんやで?

お前には辛い事やろうけど、俺には幸せな事なんや。
お前の変わりに死ぬっていうのも、幸せな事なんやで。

遠くで、救急車のサイレンの音がしたような気がした。
来たって、無駄やで。
俺はもうすぐこの世界にサヨナラする運命なんやから。



菜乃葉に、サヨナラするんやから。



菜乃葉の頬があるであろうところに、力一杯腕を伸ばした。
だが、菜乃葉の頬に触れる前に感覚が無くなって、地面にゴトリと落ちる。
ははっ、腕を上げる事も出来へんごとなったか。



「なの、は‥‥ありが、と‥う」



「‥‥志黄、私、ちゃんと幸せだったからね」


最後に涙を流しながらも笑ったお前が、ハッキリ見えた。
聞こえたこの言葉も、ちゃんとハッキリしていた。





そうか、お前も幸せやったんか。

ありがとな、菜乃葉。





そして俺は、もう二度と開く事の無いまぶたを





ゆっくりと閉じた。