それからは、お互いの趣味や好きな食べ物、来世に期待すること、なぜキリンの首は長いのか、など他愛もない話をした。とは言っても、彼女が一方的に話していたのだが。
楽しい時間は長くは続かない。彼女は不意に
「あ、もう時間だから帰るね。見たいテレビがあるの。」
と言い残して帰っていった。彼女は最後まで何も買っていかなかった。

彼女の背中が小さくなるまで見送っていた。
「結局、名前も年齢も、自殺しようとした理由も、肝心なことは何も聞けなかったな…」

溜め息まじりの小さなつぶやきは、家路につこうとするサラリーマン達の足音で掻き消されていった。