あの日、突然ビルから身を投げ出した女性が僕の目の前に現れたのだ。

「へぇ、君って絵描きさんなんだぁ。」

なんとも、大して関心もなさそうな言い方である。話題作りをしたいが、僕は彼女に何て話せばいいのか全くわからなかった。

「ねぇ、こんなにいっぱい絵があるけど。これって売れてるわけ？」

この発言には流石に腹が立った。見ず知らずの女が、僕の何がわかるっていうんだ！夢中で言い返す。

「う、うるさいな！売れるとか売れないとかの問題じゃないんだよ！」

自分の必死の抵抗が空しく響いた。あぁ、これほどまでに自分の発言力は無いのかと、改めて失望した。

「あはは、ごめんね。怒っちゃった？」

とても謝罪する人間の態度とは思えない。しかし、笑っている彼女は確かに美しかった。

不意に話題が変わる。

「あの時はビックリしたでしょ。ごめんね、あんなことしといたのに無視して帰っちゃって。いやね、見たいテレビがあったの。」

あの日、無表情で睨み付けた人間とは思えないほど彼女は明るい。拍子抜けもいいとこである。

「そりゃあ、人がビルから落ちるとこ見たら誰でもビックリするさ。」

「あはは、ごもっともだね。」