彼女は僕の方に振り返って「ほらね」と笑っていた。僕は腰が抜けて立っていられなかった。

「見たでしょ？私、絶対に死ねないのよ。」

「あぁ、わかったよ。わかったからもう二度と僕の目の前で死のうとしないでくれ。」

少し声が震えていた。



それからは、彼女と色んなことを話していた。
彼女の名前や、年齢、職業に、好きな食べ物。前に聞きそびれた基本的なことは全部聞いたつもりだ。

水沢ユイ。２１歳。奇跡的に僕と同じ大学に通っているが家は近所ではない。好きな食べ物はメロンパンらしい。

彼女は、「今日も見たいテレビがあるんだ。バイバ〜イ」と言って、そそくさと帰っていった。
去り際、風にめくれた袖の向こうに、生々しい手首の傷痕が顔を覗かせた。

「あぁ、ホントに死ねないんだな」と間抜けなことを考えてしまった。
もっと深刻に考えるべきなのに。


そういえば僕は彼女となら人並みに話せていたなと、帰りの電車の中で思い出したように呟いた。
彼女は僕を根本から変えてくれるかもしれない。いや、僕自身が変わるきっかけになるかもしれない…。