馴々しいとは思ったが、素直な疑問を彼女にぶつけてみた。

「なぜ君は自殺なんかしようとするのさ?」

「う〜ん、それが今の私の夢なんだよね。」

意外にも素直に答えてくれた。だが、僕には意味のわからない返答だった。

「夢…?」

「そう、夢。私ね、天国ってあると思うの。どういう世界かまではわからないんだけど、少なくともこの世界よりはイイと思うわけ。」

「要するに、この世界に見切りをつけたわけだ。」

「ま、そういうこと。だってさ、今の世の中って汚れてるじゃない。戦争とかテロとか、私利私欲な犯罪とか。あ、別に私は宗教とかやってるわけじゃないからね。」

やはり彼女はどこか拍子抜けする。真剣になったと思ったら、急にいつもの明るい彼女に戻るのだ。

「でもね、私って神様に嫌われてるみたいでさ。どんな方法でも死ねないんだ。」

「つまり不死者ってこと?」

「ゾンビみたいに言わないでよ。まだ生きてるわけだし。」

「それもそうだね。で、今までの戦歴は?」

「あのね、最初は自宅でリストカットをしたんだけど、なぜかキレイに傷が塞がって失敗。首を吊っても縄が切れるし、ビルから跳び下りてもクッションの上に落ちるし、電車の前に飛び出しても目の前で電車は止まるし。何をやってもダメなのよ。」

何と言ったらいいのだろう。言葉が出てこない。彼女への言葉を模索していると彼女が先に口を開いた。

「証拠見せてあげよっか?」

「え…?」

思いがけない発言に戸惑っていると、彼女は突然車が往来する道路へ走り出した。
が、飛び出す前に、信号が赤に変わり、走る車は1台もなくなってしまった。