「実の手を引いてね。必死に走ったよ。生き延びるために」


 ザァザァと降る雨の中、海が見えない場所に向かって走った。母さんから逃げるために走った。息が切れても、肺が焼け付くように熱くなっても、怖くて、怖くて、後ろを見ることすら怖くて、必死に走った。


「まぁ、結局母さんに捕まったんだけどね。そのときには思いなおしてくれたみたいでね。今はみんな生きてるだろ?」


 話していると少し泣きそうになってくる。私はよく生きてるものだ。


「このときだね。父さんは毎日死ぬことばっかり考えてたけど、案外死ぬのは怖くて、自分は生きたいんだ、ってことを知ってね。それからだね。ちょっとだけ戦ってみようって思ったのは」


 決意したね。
 私は死にたくないんだから、殺されたくないんだから、じゃあ頑張って生き抜いてやろうって。