今宵、月の照らす街で

多香子からの連絡を受けた後、直感で江戸城迎賓館の名が、千鶴の中で何度も繰り返された。


病院に向かう指示を受けているはずなのに、どうしても迎賓館が頭から離れない。


その直感に従って、千鶴は迎賓館に車を走らせる。


迎賓館入口に着いて、宮内庁直轄近衛兵に私のコードを明かした。


「コードNA31、凪千鶴よ。いいかしら?」


近衛兵は勿体ない程丁寧に頭を下げた。


「そんなに偉くないわよ?」


「いえ、お車はお預かりします。中で皆様がお待ちです」


―――皆様?


浮かんだ疑問は、迎賓館の扉が開いた時に全てが解決した。


「…直仁?」


壥直仁[ヤシキ タダヒト]。眼鏡の底から、ユルい眼が見える。


「千鶴…相変わらずキビキビしてるねぇ」


身長196cmで、猫背。いつ見てもだるそうにしてるせいか、千鶴がイライラすることもしばしば。


でもさすがに久しぶりに会ったから、怒る事はしなかった。


「貴方はいつもノンビリさんね。なんで此処に?」


尋ねても沈黙するのはいつものこと。しばらくすると返事をくれるので、千鶴は少し間を置いた。


「…如月が見つかった」