事件から数日立ち、世間では成人式が挙行され、年始の行事はあらかた幕を閉じた。


霞ヶ関にある宮内庁特殊現象対策陰陽課関東支部は、事件前の様子に戻りかけている。


ただ、弐番隊長席には一輪挿しが静かに添えられていた。


「室長、お疲れ様です」


多香子がワードで書類を打っていると、あずさが珈琲を運んでくれた。


「ありがとう」


あずさは頭を下げる。仕事もキチンとこなし、細かい気遣いも怠らない彼女は、対策室全員から厚い信頼を得ている。


「成二と明奈は先日の依頼通り、歌舞伎町。隆人、康介両名も配備完了です」


―――成二が歌舞伎町なんて…。


あずさの報告に、少し不安になる。これを過保護なのかは知らないが、任務と言えども弟を歌舞伎町に送り込むのは、姉としては止めた方がよかったのだろうか…?


「室長のお気持ちは察しますが、紘子の代わりになりえるのは成二ですから…」


あずさには、多香子の心配が少し伝わったのか、声をかける。


「まぁね…」


わかってはいたが、不安は拭い去る事が出来ない。


早く成二が帰って来るのを願うだけしか出来ないが、なんかもどかしかった。