今宵、月の照らす街で

天玉院の間にぶつかる嵐に呼応するかの様に、多香子が目を覚ました。


「父さん…………」


ベッドから跳ね起きるや否や、多香子は周りを見渡した。自分の居る場所を理解するまで少しの時間が必要だったが、すぐに見慣れた空間に安堵の息が漏れる。


突然、その部屋を強い衝撃襲った。


室長として、第一線で闘ってきたからこそ、気付く直感と、確かに伝わる多数の強い波動に、全ての状況を把握出来た。


「紘子…成二…みんな…!!」


自らの身体を案じる余裕は無かった。


多香子は2階にある自分の部屋の窓を開ける。大きな窓一面に映る光景は、巨大な氷壁が広がっていた。


多香子は窓を開け、何の前触れもないままに戦場に飛び込む。


「「「!!」」」


その姿に、敵の視線が集中する。


「小龍沢…多香子………!」


オメガが名を呟く。


「室長…!」


京介が多香子を案じる声を出す。それと同時に、強すぎる殺気に背筋に悪寒が走った。


「室長!上だ!」


京介のその声に、多香子が空を見上げた。その時には既に多香子の目の前に刃があった。


避ける時間がない。


そう直感が告げ、反射的に多香子は風の気を放った。


風の障壁が多香子に迫る刃を受け流し、襲撃者は即座に間合いを取った。