今宵、月の照らす街で

「姉さん…行ってきます」


静かに眠る姉の右頬を優しく撫でながら、紘子が呟いた。


「成二、行こう」


背中に立っていた弟に声をかけ、紘子は部屋の扉を開く。扉の向こうには、丁度ノブに手をかけようとした京介が立っていた。


「行ってきます。姉さんをよろしくね」


「了解」


普段あまり表情を崩さない紘子が、少し口の端を上げた。その姿を珍しそうに見つめる京介は、成二に声をかけた。


「あんな美人の姉が居るなんざ、幸せ以外の何でもねぇな」


「…姉弟だと、中々わからないもんスよ」


「ハッ…さっさと行けや」


「ちっす」


成二が階段を駆け降りる音がパタパタと響く。その音が鳴り止むまで、京介は階段から眼を離さなかった。その瞳に映っていたのは、複雑な感情の入り混じった色。


一度眼を閉じた後、京介は決意を秘めた瞳を浮かべ、多香子の休む部屋へと入った。