「やるじゃない」


大きな陰の気配の消失を察知した千鶴が呟いた。


「退却するわ!多香子を絶対死守!」


トランシーバーに叫ぶ千鶴の声を合図に、室員が一カ所に集まろうとする。


暗黙の集合地点の中心―多香子を抱える京介と、その護衛に回る千鶴を援護するように、室員は無意識のままに陣形を作った。


「突破するわよ。みんな、ココ踏ん張り所だからね」


千鶴の声に、室員が頷く。意志がひとつになろうという時、全員が周囲の異変を肌で感じ取った。


アルファの形を成していた陰が、鬼神や鬼蜘蛛に纏わりつきはじめる、という異変。


ただでさえ数で劣るにも関わらず、多くの敵が目の前で力を得始める。


『づ………ん……千……さん』


千鶴の耳に、ノイズ混じりの声が届く。


「…成二?成二なの?」


『ちょ…と力貸し…下さ…。突破口を拓きます』


“突破口を拓く”の言葉に、心臓が強く脈打ったのを、千鶴は感じた。


それが何故かはわからない。ただ、成二なら何かしてくれる。その一心があったからかもしれない。


「京介、結衣、桜は待機!剣一郎と合流して頂戴。明奈と私で成二のサポートに回ります」