アルファが口を閉じた瞬間、その炎はアルファの目の前数センチまで迫っていた。


咄嗟に身体を反らすが、己の背にあった眷属は、その業火に包まれた。


「やっぱり逃げるのは上手いな」


蛍剣一郎の右手に握られた太刀“陽炎”は、剣一郎の気に呼応して激しくも静かな炎を宿す。


以前闘った時よりも強い。アルファの直感が、身体中に警報を鳴らした。


「こいつは危険だ」、と。


しかしアルファに拡がった恐怖心は、それを上回る好奇心には勝てなかった。


「蛍剣一郎…やっぱり君は俺が殺したい」


「やってみな」


アルファが作り出した黒刀に黒炎が宿る。アルファは全力を以て、剣一郎にぶつかった。


その場は、黒と白が混ざり合った、不気味な爆炎に支配された。


それは合図でもあった。


千鶴、明奈を筆頭にして、迫り来る魔を迎え撃つ。


魔は波の如く押し寄せて来る。即ち、逃げる場所は無い。


「ダイヤモンド・ダスト」


結衣の術で、氷のカーテンが作り出された。猛スピードで迫っていた魔は、激しくぶつかり、一気に進行速度が下がる。


同時に、千鶴と京介は空を舞い、それぞれ両手に貯めた巨大な気を思い切って氷壁に叩き付けた。