多香子の目の前で、葉月が倒れ込んだ。


身に纏わり付いた陰の鎧は剥がれ落ち、力無い葉月の身体だけが静かに横たわる。


娘を使ってまでの異常な廉明の暴走に、多香子は歯を食いしばった。


家族とは、己の欲望の為に存在するのではない。それは当然だと母に教えられ、育った。だから両親が居なくとも、紘子と成二には姉としての最大の愛情をもって接し続けてきた。


その日々があったからこそ、廉明の行動に怒りを覚えた事は当然だった。


多香子は携帯を開いて、対策室の緊急コードをプッシュする。


『御無事でしたか、室長…』


「うん。ありがとね、あずさちゃん。今から政都対策室のメンバーを霞ヶ関に集められるだけ集めて」


『直ちに収集します』


「お願いね」


通話を切ると、無機質な短い通話時間が表示されていた。


しばらくその画面を注視する。白い背景と、黒い文字。


そう。今からすべき事も、この画面と同じで、至ってシンプルだ。


小龍沢のすべき事。


それは、月那主宮の暴走を止める事。