今宵、月の照らす街で

「グレイシャル・アーツ」


静かに結衣が目を閉じた。力を集約させた。


水の気は風を纏い、白い結晶を作り出す。一見、優しくなびく風は、突然に氷に変わり、魔を喰らいつくした。


辛くも、それから逃れた鬼蜘蛛が結衣に飛び掛かる。


「残念ね」


そこに千鶴が立ちはだかった。


先の闘い同様、千鶴の左脚に龍の波動が発現していた。その脚をゆっくり動かし、鬼蜘蛛の動く軌道と脚の動きを完全に一致させる。


その瞬間、千鶴の左脚が加速する。大きな牙を見せた龍は、そのまま鬼蜘蛛を食いちぎった。


「これで終わり?」


千鶴の所に結衣が近寄る。


「みたい」


二人が見渡す場にあるのは、散らばって浄化されつつある魔のカケラだけ。


「じゃあ柱壊して、次行くわよ」


千鶴の声に頷き、結衣も柱へと近寄る。


赤々とした、禍々しいそれを見上げて、二人は気を解放する。


凪家の“龍”の波動と、霞家の、“結晶”の波動。


千鶴の左脚と、結衣の冷気が、柱に激しくぶつかる。


赤い柱は、縦に大きな亀裂を走らせたあと、激しく崩れ落ちた。