仮庁舎から千鶴達が離れ、15分が過ぎた。


長い戦いを経ても、葉月の身体は軽々と宙を舞い、槍を巧に繰り出す。


その一撃一撃は大きな威力で、綺麗にならされた地面を荒野に変える。


多香子はその中で、じっと葉月の身体を見つめていた。その瞳は、まだ深みのある空の色だ。


『光風霽月[コウフウサイゲツ]…!』


光風霽月。それは小龍沢の長子に宿る、嵐の支配者たる証。三柱神の末裔の中、唯一、その能力が他の家に知られていない、伝説の力。


『気に喰わぬ…その瞳…200年前に我が祖を追い詰めた瞳…!月那主宮の血が貴様のその瞳が憎いと騒ぐ!』


「そう」


多香子が嵐紋菊一文字を構える。そのまま、一歩ずつ歩きながら、10m程離れた葉月の身体に向かう。


しかし、それは錯覚だった。


10mの間合いを、歩いているように見えていた筈が、既に葉月の身体と多香子は、横に並んでいた。


『な…!』


「斬景煉舞」


多香子の一太刀が、鮮明に葉月の身体を覆う鎧に刻まれた。


鎧の破片からは、魔の障気が煙と変わる。すかさず多香子は空いた右手に風を纏い、掌底を繰り出した。


風圧で葉月の身体は簡単に飛ばされ、仮庁舎に激突した。