今までの成二の嵐月時雨とは明らかに異なる、新たな嵐月時雨。


小龍沢家のみが扱える、純粋な風の気が、嵐の波動として、大剣一本一本に宿っていた。


嵐月時雨による剣の雨を、明人は死神の7つの大鎌で防ぐ。


その間に成二は着地し、もう一度地を蹴った。


明人は嵐月時雨に気を取られ、成二に気付くのが遅れる。


そのまま間合いに入った成二は、唯一手にした大剣にも波動を宿した。


「斬景煉舞」


防御しきれないまま、成二の斬撃が明人に刻まれる。


「グアァアァァァッ!!?」


その直後に嵐月時雨が間髪入れずに、明人を貫いた。


空での攻防を見ていた明奈の瞳から、静かに涙が零れる。


「兄さん…」


覚悟を決めていた筈の彼女の瞳には、隠していた本心がとめどなく溢れ出した。


哀しみに包まれる明奈の歪んだ視界の中で、身体を屈める兄の姿。その背中から、新たな異変が起こる。


「クク…ハハハハハ………ハァ―ッハッハッハッハッ!!!!!!」


「?」


「兄さん…?」


明奈も見た事が無い、兄の下劣な笑い声。その声に、邪気の様な、歪んだ感情が溢れてくる。


「いいぞ、小龍沢ァ!もっと俺を楽しませろ!」


月を背にした明人の傷口から、歪んだ咆哮と共に、もう一体の死神が顔を見せた。