「時に、成二、葉月」


急に名を呼ばれて少し驚いた。


どうやら葉月も同じ様だ。何が起こったのかわからない顔をしている。


―――どんだけ焦ってんだ、あいつ。


「2人共、当主とは離れた身なれども、その名に恥じぬよう精進なさい」


深く刻まれたしわで作られた宗家当主の笑顔。


面と向かって見る事が出来ないままに、二人はすぐ頭を下げた。


「期待していますよ」


―――プレッシャーはいらないんだが…


成二はそう思ったが、頭を下げたまま小さな声で返事をした。


「…ではこれにて参神集礼の儀を閉じる」


そう宣言した天皇はそのまま上座に立ち、長官と多香子が個人的に挨拶に伺う。


「期待されてるわね」


隣に立っていた紘子が腕を組みながら言った。


「別に期待なんて…」


―――邪魔なだけだ…


成二の考えは筒抜けだったのだろう。紘子は溜息をついて短くこう言った。


「期待は希望、希望は未来」


―――どういう事だ?


顔をしかめると、冷静な姉は、ふんわり笑みを浮かべた。


「きっとわかる時が来るわ」