今宵、月の照らす街で

高層ビル群の屋上を駆け抜ける4つの陰。


丸ノ内のレストランバーから出た成二達は、気の力を利用しながら秋葉原へと向かっていた。


「千鶴さん…右手…」


千鶴の、淡く光る右手を見た成二が、心配そうな声を出す。


「アナタもね」


明奈が成二に声をかける。


「え」


成二は自身の手を見た。手の甲には淡い橙色の光が宿っている。


明奈の手にも同じ光が灯っていたが、葉月の手には何も起こっていない。


「如月家の波動…桜ね」


千鶴の眼が少し細くなる。


何かを考えている様だが、成二には何もわからなかった。


突然、何もないビルの屋上で、明奈が脚を止めた。


「明奈さん?」


師の不可思議な行動に、成二も脚を止めた。


「…先に行っててくれる?なんか用事出来ちゃった」


もう沈み終える間際の夕陽を眺めながら、遠くを見ていた。


「…行くわよ」


千鶴は何も言わずに再びビルへと跳んだ。


「千鶴さん!」


葉月は急いで後を追う。


そのビルには成二と明奈しか残っていない。


成二も明奈も、口を開こうとする気配が無かった。