今宵、月の照らす街で

桜は意識を足元に集中させた。


そして右足から3歩だけ歩いて足を揃え、次は左足から3歩だけ歩く。


客観的には緩やかな動作に見えたが、“陰”の視界には捕らえられなかった。


「弐ノ印[ニノイン]…」


言葉と同時に“陰”の視界に入るが、“陰”は、あまりにも急過ぎる出来事についていけない。


「葵[アオイ]!」


「…!!!!」


高密度の気を注入され、“陰”の表面が少し崩れた。


「な…何をしたぁ!!」


苦悶の表情を浮かべる敵に、桜は構えを解かずに再び構える。


「2年前。フランスで如月家当主が殺された。お前は私を見た時、すぐに私の家名を当てた………答えなさい!お前は何を知ってる!」


今の桜の闘いからは予想出来ない程、冷静とは程遠い表情で怒鳴り声をあげた。


「フランス…」


“陰”は一言呟いた後、口元を歪ませる。


「知ってるよ…だけど教えられない…だって俺達を創った御方には逆らえないからな!!」


崩れかけた身体が再構築され、“陰”の身体が再び人型に戻る。


「…黒幕…だったら!」


桜も身に纏う気を、より純度の高いモノに練り上げる。


「お前を倒して引きずり出してやる!」