「あら、何が?」


「放っておくことです。千鶴さんは知ってますよね?八龍の凪家なら尚更」


怒りの視線を出す葉月と、冷たい視線を出す千鶴。


「助けてあげないと、せーちゃんの心に魔が巣喰います」


「知ってるわ」


「知ってるならどうして!」


葉月の口調が厳しくなる。


まだ高校生だもの、仕方がないのだと思いながら、千鶴は口を開いた。


「自ら助ける事が優しさじゃない時もあるの」


葉月の視線はまだ変わらないままだが、構わず話を続けた。


「それは成二自身が立ち向かう事で初めて乗り越えられる壁。私は、あーです、こーです、あーしろ、こーしろ、だなんて言う必要は何処にもない…私は、成二なら越えられるって信じてるもの」


―――それに、そういう役は私なんかじゃないわ…一人、適任がいるもの…


しばらくして、葉月の視線から怒りが消えていくのを感じた。


時々、説明しても理解してくれない人がいる。だが、どうやら葉月は該当しないタイプの人間だった事に、千鶴は少し安心した。