政都宮内庁庁舎1Fロビー。


ポーンと音が鳴り、エレベーターの扉が開く。


「あの…」


エレベーターのドアが開ききらない内に葉月が声をかける。


「凪千鶴。千鶴でいいわ」


葉月がその名前に驚く。


「凪…千鶴さん……」


脚を停めた葉月に倣って、千鶴も脚を停めて振り向いた。


「ええ。どうかした?」


「知ってます。お父様がよく名前を出すんです」


「あぁ…よくスカウトされるから…でもゴメンなさい。全部断ってて…」


言葉の通り、千鶴は月宮―――月那主宮廉明本人から何回もスカウトを受けていた。


その背景にあるのは、おそらく春日明奈の存在。


八龍最強の血筋にして最強の退魔師・千鶴と同等…もしかしたらそれ以上かも知れない存在が、本庁から離れた穴は大きい。


抜けた穴が大きいなら、最低でも同格のフタが必要だ。


それに見合う存在こそが、凪家現当主・千鶴だった。


「さ、マワリに行くわよ。説明は歩きながらするわ」