今宵、月の照らす街で

―――私がこうして人を抱きしめるなんて…


そのまましばらく、成二の背中をゆっくりさすり、時々ポンポンと叩いた。


気付くと、明奈の首筋に当たる息のペースが一定になっていた。


「せぇじ…?」


身体を少し離すと、成二の寝顔が見える。


「寝ちゃったのね」


頬に涙の跡が残る成二の顔を見ていたら、何だか急に愛しくなった。


固く握った手を離す事に何だか抵抗があったが、弟子を起こさない様に静かに手を離した。


―――無理矢理連れて来て正解だったな…


陰陽師・退魔師の“気”は常時発現している。それは繊細なモノで、心に大きく左右される。


負の感情を抱いていた最近の成二の“気”は不安定すぎた。


人は木火土金水いずれかの気を有するが、小龍沢の一族は“風”を有する。


風は強く、優しい気。そして決まった形を持たないが故に、揺らぎやすい。


だから、負の感情に、どの属性よりも大きく揺らいでしまう為に、こうして心を開かせる必要があった。


―――最も、このコがここまで素直に吐き出してくれるのは意外だったけど…


そんなに前ではないが、弟子にしたばかりの時は、よそよそしく、人の優しさにすら戸惑いを見せていた。


その成二が、ここまで感情を出す様になったのは、大きな変化であり、成長とも言えるのかもしれない。