身体が重い。そして何よりも今は眠い。


眠気に支配され、成二は宮内庁庁舎ビルから出る。


空には満月が浮かんでいた。


「せー君、待って」


名前を呼ぶ声に振り向く。


「先輩…」


はるかが息を切らし、庁舎ロビーから飛び出して来た。


「コレ…持ってて」


はるかの手には、綺麗に光るモノがあった。


シルバーベースの、ワンポイントで小さなルビーが嵌め込まれた、ドックタグ。


「コレ…大切なモノじゃないんですか?お母さんの形見って…」


「いーの。今は、せー君が持ってて」


強引に手の中に入れられる。流石に大切なモノを、素直に受け取ることは出来なかった。


「いや、でも…」


「本当にいーの。せー君、悩んでたから…わ…わたし…は…いつでも…せー君の味方だからね」


はるかは照れ臭そうに笑顔を浮かべた。


「じゃね、せー君」


「あ…先輩…」


呼びかけに応えず、少し駆け足になって、はるかは赤いテールランプで色付いた街へと消えていく。


成二はただじっと見つめる事しか出来なかった。