『あ、オジさん
 別に気にしないで。
大丈夫、
ちゃんと帰れるから』と言って
私は軽く手を振り
背中を向けた。

その瞬間−−−


オジさんは私の手を掴み

グイグイと引っ張りだした。



『はっ!?ちょっ…
何なの!?
ってか、手ぇ痛いし!!
どこ行くの??』

オジさんは
私の問い掛けを無視し
さらに私の手を引っ張る−−


そして
掴んでいた手を離し


止まった−−−−



そこはタクシー乗り場だった。


「危ないから
タクシーで帰りなさい」
と言われ
三千円と名刺を渡された。


「何かあった時は
電話でもメールでもして。
話、聞く事ぐらいは
できるから」
と言ってドアを閉めた−−


変な人だった。

だけど、初めて会ったのに
何か……

とても心地の良さを感じた…

内面から
優しさや思いやり
暖かさが
溢れ出ているような
人だった…。


自然と
『また会いたい、
また会ってみたい』
と言う気持ちになった。

女性ドライバーのタクシーに
乗せてくれた事も
あのオジさんの
優しさだったのだろう…

人に優しくされる
という事が
久々だった私は
家に帰ってからも
ずっと暖かな気持ちで
いられた…


もらった名刺を見て
名前は《ゆうじ》という事が
わかった。

お互いの事は
何も知らないまま出会い
そして
何も知らないまま別れた−−

また会ってみたいと思うのは
当然だろう…。


これが
ゆうじさんとの出会いだった。