千夏が二十歳の誕生日を迎えた頃、父は一年間の闘病の末に他界した。


下咽頭がんだった。

あまり長くもたないと言われていたらしいが、千夏は最後まで諦めなかったという。


「お父さんの死からようやく立ち直ったところで、まさか自分も同じ場所へ向かうとは思ってもいなかっただろうね……。

本当に、かわいそうな事故だった」


飲酒運転の車に、乗っていた自転車ごと勢いよくはねられ、ほぼ即死だったという。

霊安室で亡骸を抱きしめながら、女性はいつか千夏が話したことを思い浮かべたと言った。


「勿論、冗談のつもりで言ったんだろうけど。

もしも自分が死んだら、お母さんやお姉ちゃんを探して知らせて欲しいって。

馬鹿言うんじゃないわよってあたし、肩を叩いたんだけど、まさかそれが本当になるとはね――。

けどさ、あたし頭悪いし、見ず知らずの二人をどうしたら探せるのかわからなくて。

お店もあるしね、気にはなってたんだけど、そのままもう5年も経過しちゃったのよ」