父がいないことで、幼少時には心ない虐めに何度も合った。


「お前んち、父ちゃん逃げたんだろ?」

「いっつもボロい服着てるよな。新しい服買えねえのかよ?

乞食!乞食!貧乏!貧乏!」


囃し立てる男の子達を、気にも留めないふりで歩く、家までの道。

あたしは悪いことなんかしてない、絶対に泣くもんか――。


玄関のドアを閉め、押入まで走ると堰を切ったように泣いた日々。

働き者で優しい母に心配を掛けまいと、辛い素振りは一切見せなかった。

お母さんが居れば平気よ、とおどけて見せる百夏に、母はとても嬉しそうに笑った。


だが、本当は周りの子が羨ましかった。

お父さん、なんでお母さんと別れちゃったの?

あたしとお母さんが邪魔になっちゃったの?

あたしもみんなみたいに、幸せに暮らしたかったよ――何度、そう思っただろうか。