次の停留所を知らせるアナウンスに、自分の降車場所が近いことを思い出し、慌てて顔を上げた。

車内は相変わらず混雑している。
おもむろに立ち上がり、斜め前に立つ老婆に席を譲ると、車内前方へ移動した。


立ち止まった前の席に座る、二人組の乗客。

さらさらと流れる髪の美しい女の子と、爽やかで純朴そうな横顔の男の子だ。

楽しそうに大声で会話するでもなく、二人はそっと寄り添っているだけのように見えた。


「杉原……もう忘れろよ――」


男の子の透明な柔らかい微笑みに、女の子は静かに頷いて、膝の上の男の子の手を握った。

そっと頭を肩に乗せると、首元に光るネックレスがキラリと輝いた。


こっちは、忘れた記憶を取り戻そうとしているというのに、方や、忘れてしまいたいような記憶、か――。


『次は、公園前、公園前――』


苦笑いを浮かべながら、天井の降車ボタンを押した。