バスの乗降口が開く。

待ちくたびれた乗客達は、我先に乗ろうと人を押しのけ、そこへ向かった。

押し寄せる人の波を背中で受け止めたまま、百夏は足が動かせなかった。


「……結婚……?」




運転手は、百夏が乗車しないのを確認すると、ドアを閉めてバスを発車させた。

待ち焦がれたはずのバスを見送りながら、百夏は繁人にもう一度尋ねた。


「あたしが、あなたと結婚の約束を?」

「おいモモカ……いつまで続ける気だよ。

8年経ってるのに、まだ許さないとでもいうのか?」


先ほどまでの印象とはうってかわり、繁人の顔は真剣そのものだ。

決して嘘をついているようには見えない。

だが、どうしても腑に落ちないのだ。


――何度見ても、この人に見覚えなどない。