「ちょ、離して下さ…」
ずっと腕を捕まれていたものだから、いい加減離してほしい。
それに、路地裏を出てからずっと早歩きだったから、少し息が苦しい。
男は尚もあたしの言葉を無視して足を進めていく。
駐車場には明かりがなくて、真っ暗闇にじゃり道の音だけが鮮明に聞こえる。
「何?せっかく助けてやったのに」
その男は、腕を掴んだまま足だけを止め、振り返った。
助けてやったのに?
ああ、和也さんのことか。
それは、有り難かったけど……。
「俺が声かけなかったら、どうなってたか分かってる?」
何も見えない暗闇の中で、低い声がやけに大きく聞こえた。
どう、なっていたか?
その問い掛けに、目を大きくして驚いたあたしは何も言えなくて、ただ俯いていた。
そして、小さく溜め息をつくと、またあたしの手を引いて歩き出した。
それに大人しくついていくあたし。

