「え……、和也さん?」
見上げれば、真剣な和也さんの顔。
後ろにはざらりとした冷たいコンクリートの壁。
顔の横に伸びた手。
少し先には賑わう人々の声。
それに比べ、ここだけがまるで別世界。
暗い闇に包まれた路地裏には、これといったものはなくもちろん人もいない。
あたし、もしかしてやばい状況……?
だんだん近付いてくる目を伏せた和也さんの顔。
え、ちょ…っ
慌てて和也さんの胸を押し返すが効き目はない様子で。
どんどんと叩いてみるがそんなことお構いなしに距離をつめてくる。
和也さんの顔はもうあと1、2㎝くらいのところまできた。
もう、無理だ…っ。
ぎゅっと力強く目を閉じた。
その瞬間、だった。
「やめとけ」

