-アンビバレント-




「分かんなっ……」

『分かんね―の?何か近くに見えるものとかは?』

「何もない…」

『まじかよ……じゃあ動くなよ!!そっから一歩も!!』

「うん……」



あたしはそう言って電話を切った。





その十数分後に車のヘッドライトがあたしに近づいてきて


運転席の窓から実流が笑かけてくれたとき


あたしは本気で夢の中にいるんだと錯覚するほど幸せを感じた。



ほとんどの人は皆、子供の頃に

迷子になって親と無事に会えることで

この小さな幸せを味わってきてるんだろうな、と思った。



きっとあたしは小さい頃に親と出掛けたりなんてしなかったから


そんな幸せも知らなかったんだ。