……早退、してしまおうか。
そんな思いが浮かび、そっと溜め息を吐き出す。
無駄な抵抗をした所で、いつかはこの対面もまたやって来るだろう。
そう思うと、なんとなく諦めるしかなかった。
昼からの時間は、驚くほど早かった。
気が付くと授業は終わり、休み時間までもが終わる。
逃げ道なんてどこにもなくて、抵抗すらできない。
この授業が終われば、後は帰るだけ……。
そう思いながら、ぼんやりと黒板を見据えた瞬間、俺の机に小さく折られたメモが回ってきた。
…なんだコレ。
回された隣の奴を見ると、何やら目配せしている。
そっと小さく折られたメモを手に取り、裏返してみて、俺は固まった。
ももへ。
固そうな不細工な字は、明らかに男の字だ。
しかも、龍雅や俊、宗太の字でもない。
差出人の名前はないが、ももと呼び捨てにする奴はこのクラスでも限られている。
一瞬、目の前が暗くなるのが分かり、頭から血の気が失せていくようだ。
……あいつしか居ねえ…。
ピンと来た瞬間には、俺は栗本を見つめていた。
今手元にあるこのメモを、更に小さく潰して投げてやろうかとも思った。
それか、何事もなかったかのように、自分の制服のポケットに突っ込んでやろうかとも考えた。
でも、そんな事できる程、俺は肝が座っていないらしい。
唇をきつく噛みしめ、気持ちを振り払うようにしてももの机に小さく投げる。
そして、酷く後悔した。
乾いた音が耳に届き、ももの元へとメモが落ちた事を告げる。
その音がなんだか、やたらと胸を締め付けた。

